2014-01-01から1年間の記事一覧

心一つに立ち上がれ!21.

一心民主国総理の記者会見場。大原総理に代わって、同国スポークスマンとして登壇したぼく。そのぼくが、胸を張って話を進める。 「さて、話を戻しましょうかね。国家の独立事例を述べよ─との質問でありましたな。国家の独立とは、既存の主権国家に属する領…

心一つに立ち上がれ!20.

破暮の人たちが、昨夜、全員同じユメを見たと言う。ユメの中に神さまが現れて、「烏帽子山線が廃線になったら、破暮の里は滅びるよ〜っ」と言ったのだと。 地区長さん、ふり返って赤イボ先生に聞いた。 「先生、そんなユメ見た?」 「うんにゃ」 「校長、あ…

心一つに立ち上がれ!19.

勝蔵さんが、警察官に引き立てられてホームに上がって来た。その手に手錠がかかっている。無届けでの大玉ぶち上げ。それが迷惑防止条例違反だとかで、勝蔵さんは現行犯逮捕されたのだ。冷たく光る金属の輪。ぼくはすごくショックだった。 ホーム上のぼくたち…

心一つに立ち上がれ!18.

全員が「へいへいほーっ」の門左さんから小紙を受け取り、それに見入る。 「は〜あ…。何かこれ、変というか…」と言ったのは大原総理だ。心に描いていたものとは、だいぶズレがあったみたい。 心美ねえちゃんが「曲は?」と聞いた。 「心踊れば 腰ふれる 腰が…

心一つに立ち上がれ!17.

再び議長の位置に立った地区長さんが議事を動かす。 「ではここで、国旗制作委員会の心之助委員長と国歌作詞委員会の門左委員長に、創作作業の進み具合を聞いてみましょうね。おーい心之助! フンドシ仕上がったかーっ!」 なんちゅう聞き方。 「仕上がった…

心一つに立ち上がれ!16.

心美ねえちゃんが、赤イボ先生のズボンの中から抜き取った越中フンドシとは…。幅約三十センチ、長さ約一メートルの布。一方の端には、ヒモが縫いつけられている。 使用法は、布の部分をうしろに垂らし、ヒモを腰に巻いて結ぶ。つぎに垂らした布を股から前に…

心一つに立ち上がれ!15.

憲法の全文が一条だけというのは、いかにも生まれたての赤ちゃんらしく、スッキリしていていい。 「よろしい。大多数をもって勝蔵の憲法案を承認し、ここにめでたく新しい国が…おっと、まだ国の名前が決まってねえなあ。国の名前、どうする?」 「案は十人十…

心一つに立ち上がれ!14.

⑭ 「烏帽子山線廃線決議の撤回ねえ。おっしゃることは分かりました。分かりましたが廃止決議の撤回となると、あれは議会が決めたことだから、あたしなんかが申し出ても…」 「地区長さん!」 「えっ、何?」 心美ねえちゃんが一歩進み出た。 「おっしゃる通り…

心一つに立ち上がれ!13.

議会の烏帽子線廃線決議をくつがえすには、だれもが納得するような新事実の提示が必要だ。その新事実が「ある」と心美ねえちゃんが言い、それを聞いた勝蔵さんが、突然うなり出した。顔を真っ赤にして「うっうっう〜っ!」とうなっている。 「あらら危ない。…

心一つに立ち上がれ!12.

とつぜん破暮駅のホームに現れた一心じいちゃんのユウレイ。 ユウレイとは、本来が透明であるべきはず。それが今、ぼくたちの目にハッキリと見えている。なぜ見えているかと言えば、心美ねえちゃんと勝蔵さんの熱い気持ちがあったからだと、一心じいちゃんの…

心一つに立ち上がれ!11.

大女優大原美津江さんが、この地に無農薬農園と自然派料理店を開設すると言う。 その構想を聞く門左さん、茂平さん、校長先生あたりは、顔をポッポと火照らせてもいる。この年代の人たちにとっての大原美津江という人は、ぼくにとっての「ミサエちゃん」みた…

心一つに立ち上がれ!10.

破暮駅のホーム上、いきなりとどろいた怪しげな音。 ジャジャジャ、ジャーン! ジャジャジャ、ジャーン! 「だれ、これ?」と、音のありかを求めてキョロキョロする面々。 音ではなく曲だった。ベートーベンの『運命』。 「あっ、これ、あたしの」と、茂平さ…

心一つに立ち上がれ!9.

ホームの上の雑談が続く。赤イボ先生の往診の話。ロハ先生の校長会の話。住職さんの料理教室の話。まだ話の出ていない門左さんが、茂平さんの肩を人差し指でトントンと突いた。 「何です?」 「訪問診療 校長会 料理教室 もろもろと 残るあなたは 何なさる?…

心一つに立ち上がれ!8.

破暮駅のホームがにぎやかになった。小さな地区だから、駅の利用客同士はみな顔なじみだ。会えば、だれかれとなく話が始まる。 「この駅舎のある風景も、あと半年ってとこだねえ」と赤イボ先生がしみじみ言えば、校長先生がそれを受ける。 「一心さんが亡く…

心一つに立ち上がれ!7.

烏帽子山線の上り車両待ちの女の人が言った。 「この辺におトイレとかは…」 「ああ、便所ね。この駅には無いんだよね」 茂平さんはそう答えてから、「あらら、もたない感じだなあ」とつぶやいた。 「ねえ、大きい方?」 こんな聞き方、普通はしない。しかも…

心一つに立ち上がれ!6

夕飯のとき、お母さんが笑いながらお父さんに言った。 「きょう、うちのぶどう畑でね、心之助が一心じいちゃんを見たって、真っ青な顔して逃げ帰って来たのよ」 「おやじを?」 「そうなの。その人、きのう供えたワインを飲んでいたんですって。昼間からユウ…

心一つに立ち上がれ!5.

夏休みの初日。ぼくは画板を下げて亀の子山を登った。亀の子山の南斜面には、じいちゃんがよいワインをつくるために丹精込めて育てあげた黒ぶどうの畑がある。そこからは広大な盆地が眼下に見渡せる。ぼくはこの眺めが大好きだ。「一級の詩人なら、一級の詩…

心一つに立ち上がれ!4.

地区の女性が年寄りから赤ちゃんまで、一丸となって起こしたユウレイ騒動は、一部の地域のローカルニュースではおさまらず、中央の新聞やテレビまでが全国ニュースとして報じた。 人間は、それが自分のこととなると『慾に手足を付けたモンスター』にもなった…

心一つに立ち上がれ!3.

烏帽子山線が最初の廃線危機に見舞われたのは、もう二十七年も前のことだ。お父さんの話では、その危機から村を救ったのが一心じいちゃん。じいちゃんが村を救うために編み出した戦術は、空飛ぶ鳥がそれを見て、驚きのあまり地面に落ちたというから奇策ぶり…

心一つに立ち上がれ!2.

ぼくは、深草村・鬼恋小学校の破暮分校に通う六年生。一心じいちゃんが学んだころは分校ではなく、一人前に独立した「破暮小学校」だった。児童数も当時は百人を超えていたそうだ。それが今ではたったの八人。十五年前、二十人を割った時点で鬼恋地区の鬼恋…

心一つに立ち上がれ!1.

『ひとしずく』を垂らし続けて早70垂れ超。こんなに垂らしちゃったら「ひとしずく」ではなくなる。それに、これ以上垂らし続けたら、元来が素直でない僕のこと。内容からして、いよいよ〝偏屈爺〟になってしまう。うん? もう充分になってるかもね。 そこ…

ひとしずく。その73

「体育の日に一杯どう?」という話が来たので、「金曜日は都合悪い」と返したら、「金曜日じゃない。月曜だぞ」と折り返された。(やつもそろそろボケ始めたか)と憐れみながら、一応カレンダーを確認すると、あれっ? 10月10日が赤くなっていない。(そ…

ひとしずく。その72

何人かと話すと、大抵一人は「最近の地球、どこか変だよね」と言う。氷床融解、干ばつ、海面上昇、洪水、山火事、ゲリラ豪雨などを指し、「いい加減にしてくれよ、地球さん」と恨みがましく言っているのだ。 どの現象も、地球の温暖化に関係しているらしい。…

ひとしずく。その71

スコットランドの独立を問う住民投票が来週木曜日(9/18)に予定されている。スコットランドは、イギリス全土の三分の一、北海道ほどの面積に530万人が暮らす。『アニーローリー』『故郷の空』『蛍の光』など、僕たちに馴染み多い曲の生まれ故郷であ…

ひとしずく。その70

国内のデング熱騒動が続いている。この病気には嫌な想い出がある。40数年前のことだ。 当時テレビディレクターだった僕は、ドキュメンタリー番組制作の旅に出た。取材地はパプア・ニューギニア、オーストラリア、タヒチ、トンガの四カ国。オーストラリア編…

ひとしずく。その69

娘が「ブログには、もっと楽しいことも書け」と言って来た。「ぐじゅぐじゅ、小言ばかり書き連ねるな」と言うのである。どうやら(あなたの子や孫の人生は長いんだから、周りを片っ端から暗い気持ちにしなさんな)ということらしい。気持ちは分かる。だから…

ひとしずく。その68

「最近は異常気象だ」と人は言う。豪雨による広島の大惨事も「異常気象によるものだ」と、誰もが天を恨む。僕もまた、犠牲となった少年や幼児や、被災の子を救おうとして落命した消防士らの新聞記事を、痛恨に包み込まれて読む。「地形がどうの土質がどうの…

ひとしずく。その67

僕は1年間の3分の1ほどを那須で過ごす。そこは14年前に建てた家だから、冷蔵庫、洗濯機、温水便器、テーブル、本棚…といった調度類は、古希を超えてしまっている僕より、相当に若いものばかりである。一方、常住の上尾にあるものは、新婚時に揃えた鍋釜…

ひとしずく。その66

日本人男性の寿命が、昨年80歳の大台に乗った。「そりゃすげえ!」と感嘆したら、女性は86歳を超えているって言うじゃない。やっぱりね。けど歴然たる差はあるにせよ、夫婦揃って傘寿超えの相合傘が実現したってわけですなあ。 しかしねえ、聴こえはメデ…

ひとしずく。その65

厚労省が、世代別の注意点を盛り込んだ、健康のための「睡眠指針」をまとめるそうだ。以前策定したものを、11年ぶりに見直した数字になるらしい。 その眠る時間。十代前半までは一晩平均8時間以上なのに対し、25歳で約7時間、45歳は約6.5時間、6…