2016-01-01から1ヶ月間の記事一覧

『蚊遣り』

『蚊遣り』 夏の夜の短い逢瀬を無粋な蚊共め。どんなに風情を求めても、蚊は執拗に迫り来るので、蚊遣りを焚いて追うしかない。 その蚊遣り、なぜか多くがブタ型だ。線香を入れるのだから、ぽっこりしたものが良いことは分かるが、「ブタでなくても…」と当時…

『配置薬』

『配置薬』 年に一度、越中富山の薬売りが、大きな風呂敷に包んだ柳行李を担いでやって来た。 「ドッコイショ」と降ろした柳行李を開けると、薬が何段にもギッシリと詰まっている。風邪薬のトンプク、六神丸。頭痛薬のケロリン。腹痛には熊の胆に赤玉。小児…

『割烹着』

『割烹着』 炊事、洗濯、掃除、針仕事…。わが家の頼もしい守護神は、何をやるにも身を割烹着に包んでいた。 割烹着は「郷愁」のつるべと言える。手繰ると割烹着から、続々と萬の郷愁が連なって浮かび上がる。手拭い、姉さんかぶり、着物、足袋、下駄、たらい…

『蚊帳』

『蚊帳』 蚊帳の多くは萌黄色に染めた麻で、茜色の縁取りがされていた。高価だが無くてはならないものだったから、嫁入り道具の一つにもされた。 蚊帳に入る時は、裾をパタパタ払ってから素早く入る。蚊を中に入れないためだが、どんなに注意しても、蚊をシ…

『そば屋の出前』

『そば屋の出前』 疎開先から東京に戻った時、まず驚いたのは第二京浜国道の幅の広さだ。(当たり前だけど)「うわーっ、車がいっぱい通ってる!」と驚嘆し、「これじゃ渡れない!」とオロオロした。 初めて見た東京には、他にも驚くことが山ほどあって、そ…

『火吹き竹』

『火吹き竹』 疎開先の家には、土間に大きなカマドがあった。炊飯・煮物の一切がカマド。燃料は山から切り出した薪。火つけにはスギの枯れた葉や皮を利用していた。 この火付けに欠かせなかったのが火吹き竹。竹筒の一端から息を吹き込むと、先端の節穴から…