『配置薬』

『配置薬』
 年に一度、越中富山の薬売りが、大きな風呂敷に包んだ柳行李を担いでやって来た。
「ドッコイショ」と降ろした柳行李を開けると、薬が何段にもギッシリと詰まっている。風邪薬のトンプク、六神丸。頭痛薬のケロリン。腹痛には熊の胆に赤玉。小児薬の救命丸。婦人薬の実母散…。
 薬売りが来たと知ると子どもたちが寄って来る。薬売りはそんな子どもたちを笑って迎え、「そら、おみやげだよ」と紙風船を取り出して渡す。子どもたちは「ありがとう!」と叫んで、表に飛び出して行く。毎年繰り返される光景だった。
 このあと、家人が柱などに掛けてあった厚手の紙袋を取って薬売りに渡す。薬売りは中味を点検し、欠品の薬があれば補充する。使用分の清算が済むと、茶をすすり、ひとしきり世間話に花を咲かせてから薬売りは去ってゆく。
 わが家は何事につけ富山の薬。薬局は殆ど利用していなかった。
 ぼくが夏場を過ごす栃木では、現在でも庭先の薬草がよく使われている。オトギリソウやゲンノショウコなどだが、先日「飲み会に行く」と言ったら、散歩仲間が足元を指さし、「だったら、そのセンフリをかじって行きなよ」と言った。