2010-01-01から1年間の記事一覧

お代官さまになる

春から秋の僕たち夫婦は、上尾と那須の往復に明け暮れる。二人揃っての移動が常だが、車を二台にしたあたりから乳離れ現象が起こり、二居に別れることもある。そんなときは当然ながら、僕が三度三度の〝賄い夫〟。面倒ではあるが、定年後ろくに働きもせず、…

秘密基地慕情

庭の樹間に、数人が寛げるスペースを作った。と言ったって、なに、テーブル代わりとなる平たい大きめの石を中心に置き、廻りに腰かけ代わりとなる敷石を数枚配しただけ。 「これ、なあに?」と訊く妻に、「デッキは直射日光で暑いから、真夏の避難所」とだけ…

そして、みんな怒った

妻は毎日一キロの坂道を徒歩で登り、ゴミの集積所まで家庭ゴミを捨てに行く。真夏でも車を使わないのは健康のためだ。 きょうも「ゴミを捨てに行って来るわよ」と妻が言ったので、「だったら、こいつも頼むよ」と、僕はズボンを脱ぎにかかった。じつはこの僕…

長いものに巻かれる

那須にはペンションが多い。「その数日本一」と誰かに聞いた気がするが、当方「空耳世代」に入っているから断言はしない。だけど、小石をパチンコで空に放つと、落下の石がペンションの屋根にコチンコロコロ当たる確率が高いことは確かである。 そんなペンシ…

家族公認疾走マン

那須は温泉地であり、別荘地であり、名所や娯楽施設を持つ観光地でもある。だから来客のときは、温泉派か、バーベキュー派か、名所巡り派か、客の興味に合わせた歓待を考える。 義母が来たので、僕と妻はアンティークジュウリー美術館を案内した。宝石と金銀…

飛行機こわい恐い怖い

どこからやって来るのだろう。時折轟音のジェット機が飛来して白線一本、那須の大空を真っ二つに割る。米軍機か自衛隊機かは判らねど、B29の爆撃を逃れての疎開経験を持つ僕は、軍機の爆音に恐れおののく。 いや、軍機に限らず、飛行機そのものを僕は好ま…

日常的ヘラヘラ術

平和郷での散歩では、行き交う人とも、垣根越しのおばさんとも、工事現場のおじさんとも、知人で有る無しに関わらず、目が合えば誰とでも挨拶を交わす。郵便局の赤いバイクとも、宅配の運転手さんとも、すれ違う際には、互いに軽い会釈を交わす。これ、自然…

ホタル飛ぶ

元来、僕は買い物が好きではない。だから家具やテレビを欲しいと思っても、自分からは買いに走らない。 有りものの買い替えとなると、特にその傾向が強まる。ズボンに穴が開こうが、靴下のゴムがひょろひょろになろうが、そのまま妻に申告せずにいる。 妻は…

記念すべき一泊目

那須の家が完成し、カギが僕たちの手に渡った。 真新しいスリッパに足を突っかけると、室内は当然ながら木の香り、空間のゆとり。一週間前に発注しておいたカーテンも、すでに取り付けられていた。 僕は窓辺に寄ってカーテンを引いた。 「おおっ!」と、これ…

魔女の魔法にやられる

那須の家の完成は2001年6月の予定。その時点での僕は、まだ定年まで1年5か月を残していた。しかしながら気分はすでに定年モード。仕事なんぞクソ喰らえ。わがテレビ局同期の連中にして、それぞれに蠢き始めていたではないか。 技術畑出身の松本君は「…

愛しのわが家が降って来た

ほどよい温度の湯に体を沈める。このとき僕は、なぜか決まって「よ〜し!」と発する。そして口から歌が流れる。「兎追いし かの山 小鮒釣りし かの川…」とか、「夕焼け 小焼けの 赤とんぼ〜…」みたいなノスタルジックなものが多い。 歌は絵筆となって、歌詞…

定年・気まま・田舎暮らしのごった煮日記の口上

人生六十余年を生きて来ながら、僕は、僕のおやじのことを何も知らない。どんな生い立ちで、どんな少年期を過ごし、どんな夢を持っていて、夢実現への挑戦意欲がどれほどで、どんな心情を持ち合わせていたのか、まったく知らない。 おやじについて知っている…