2016-12-01から1ヶ月間の記事一覧

『ホーローの看板』

『ホーローの看板』 ホーローの看板と聞いて大抵の人の頭に浮かぶのは、塩とたばこの看板ではないだろうか。子どもの頃、それを避けては通りを行き交えないほど、視野の一部を賑わしていた。それもその筈、塩とたばこは、今のようにどこからでも入手できるも…

『てるてる坊主』

『てるてる坊主』 運動会や遠足の前日の空を雲が覆うと、子を持つ家々の軒先に、白いてるてる坊主がぶら下がった。翌日の晴天を祈念するわけだが、雨の予報が出ている時ほどそうするものだから、頼まれる側のてるてる坊主は、「間尺に合わない」と、ブツクサ…

『台風』

『台風』 「台風○○号は間もなく和歌山県の紀伊半島付近に上陸し、夜には関東の首都圏直撃の恐れが出ています」 ラジオが大型台風の接近を知らせると、トントントン…と、どこからか釘打ちの音が聴こえ始める。音は次第にその数を増し、数時間のうちには町中ト…

『クズ屋』

『くず屋』 東京の下町にあるわが家の近辺には、リヤカーを引いたくず屋さんがよく廻って来た。 「くずィ〜、くずィ〜。くずや〜ァお払い」 声が掛かればボロ布、古着、古紙、金物、割れたガラス…、大抵のものを天秤ばかりに掛け、「一貫目幾ら」で引き取っ…

『アメリカザリガニ』

『アメリカザリガニ』 赤くて大きな爪を持つこの生きものを、ぼくたちは「エビガニ」と呼んでいた。イセエビにも似た立派な見栄えなのに、投棄物の多い不潔などぶ川にも居て、例えるなら、我楽多車庫に真っ赤なポルシェが置かれたような風景であった。 アメ…