2016-03-01から1ヶ月間の記事一覧

『銭湯』

『銭湯』 三年生の末に引っ越した家からは、徒歩七〜八分内に三軒の銭湯があった。その頃まで、ぼくは母に連れられ女湯を利用していた。体格としてその程度の時代だったのか? はたまた、わが家が世間の常識に疎かったのか? 当時の入浴料は、大人(中学生以…

『金魚売り』

『金魚売り』 「きんぎょ〜ぇ きんぎょ〜っ」と、細く涼しげな声でやって来る金魚売り。風鈴のチリンチリンも清涼感を呼び、暑さが一瞬なりとも和らいだ。 金魚は、千年以上も前に中国で作り出された魚である。元祖を辿れば鮒で、これが緋鮒となり、さらに改…

『赤チン』

『赤チン』 赤チンとはマーキュロクロム液のことで、ヨードチンキではない。ヨードチンキが傷薬だった時代の名残りで、色が赤かったことから「赤いヨードチンキ」を略し「赤チン」との俗称になった。 昭和二十年代の児童は、おてんとうさまがある限り、屋外…

『足踏みミシン』

『足踏みミシン』 日本の地を踏んだ最初のミシンは、アメリカ総領事ハリスが徳川将軍家定の奥方に献上したものだと言われている。国産品の第一号は、大正十四年上野松坂屋で市販されたパインミシン(のちの蛇の目ミシン)。しかし戦前の日本市場の九割までを…

『御用聞き』

『御用聞き』 御用聞きと聞けば、漫画『サザエさん』に登場する三河屋の三平さんと、その後任のサブちゃんが浮かぶ。どちらも好青年で、三平さんはカツオたちを実家に近い蔵王のスキー場に連れて行ったりもしている。時代背景を大切にした漫画だったから、こ…

『張り板』

『張り板』 貸衣装もドライクリーニングも無い時代、晴れ着のまま羽目を外す今のような成人式が行われたら、母たるものは途方に暮れたと思う。汚れたもの、傷んだものは、解いて洗い、縫い直すしかなかったのだから。 昭和二十年代の生活には、和服、どてら…