2015-05-01から1ヶ月間の記事一覧

小説『木馬! そして…』6.

6. 宿直明けの朝、美佐江は理事長と共にテレビ番組『わたしの宝物』を見た。その中で、親交のある元町あかりが、自身の生い立ちの秘密を明かした。美佐江にとっても初耳だったし、思いも寄らなかったことである。だけど美佐江の関心は、それとは別なものに…

小説『木馬! そして…』5.

3.黄色いリボン 四方を林に囲まれた函館市郊外の私立の児童擁護施設『コスモスの家』。 理事長の月丘恵子は、普段はほとんど見ることのないテレビに電源を入れた。『わたしの宝物』という番組を見るためだ。 月丘理事長は、かつて孤児院の院長をしていた。…

小説『木馬! そして…』4.

みゆうの青春は〝労働〟の文字で埋め尽くされた。 苦節十五年。溜めるつもりの苦労ではなかったが、結果としてお金が溜まった。 みゆうはそのお金で、北海道札幌市の北の外れにある小さな農場を手に入れた。三十歳のときである。何のゆかりもない遠い地を選…

小説『木馬! そして…』3.

2.しんせん農場 札幌駅から学園都市線で北へおよそ三十分。広大な石狩川が望める位置に女性ばかりの農場がある。無農薬、有機農法による野菜作りをしていて、直売のほかにインターネットでの受注販売も行っている。ただし、販売のみを目的としているわけで…

小説『木馬! そして…』2.

2.「わたくし、去年のこの日に決めたことがあるんです」 「一年前に決めたこと。どのようなことでしょう?」 「つぎの誕生日が来たら、あることを打ち明けよう。そう決めたんです」 「そして迎えたその日がきょう…」 「そうです。その日がついにやって来た…

ブログ小説『木馬! そして…』1.

ブログ小説『木馬! そして…』 人は愛情なくして生きられない。自分が生きているということは、自分では思ったこともない人たちからの、陰での支えを受けているから─。……かねこたかし1.女優の告白 那須高原のハーブ園『ハーブランド那須』の四月の朝。 「…

ナナカマドの仲間たち 最終回

23.ナナカマドの仲間たち 太洋と再会したあの日からきっかり二カ月後の10月16日。わたしたちはとんぼ沼のほとりに集結した。 里江は、北海道の女満別空港から仙台空港経由でやって来た。「何よ、その荷物! まるで地球の裏まで行くみたい!」と光子が…