2015-01-01から1ヶ月間の記事一覧

ナナカマドの仲間たち 2.

2.海から来た男 おれたちは六年生になった。 校庭の四月のさくらは三分咲き。間もなく春の風が、花びらを教室の中にも送り込んで来るだろう。 「おはよう!」と、ハッカケが教室のうしろのドアから入って来た。前から来たり、うしろから来たり。廊下側の窓…

ナナカマドの仲間たち 1.

プロローグ わたしたちには、決して風化しない一日がある。昭和二十九年八月十六日にそれは起こった。きょうは、あれから六十回目のその日である。 あの日の荒くれがウソのよう。とんぼ沼は青い空と真綿のような浮雲を、その水面に映し出している。 武、光子…

心一つに立ち上がれ!26.

勝蔵さんと心美ねえちゃん、そしてぼく。三人で立つ丘の上。三人とも、おばけ駅を見下ろしている。ぼくは、一年前のことを思い出していた。一年前の七月三日。 その日も、ぼくたちはこの丘からおばけ駅を見降ろしていた。そこにはまだ一心じいちゃんもいた。…

心一つに立ち上がれ!25.

そして、旧破暮駅のホーム上での捕りもの騒動から三年が過ぎた。 勝蔵さんは、三か月前、心美ねえちゃんと結婚した。ぼくの義理のお兄さんになったというわけ。 ぼくたち三人は、亀の子山のブドウ畑にある一心じいちゃんの石碑の前に立った。 「じいちゃん、…

心一つに立ち上がれ!24.

あとで判ったことだけど、驚いたのは社名の『烏帽子山鉄道』を『おばけ鉄道』に─という冗談まで、勝蔵さんが本気で実現させようとしていたことだった。 ある日勝蔵さんは、心美ねえちゃんとぼくを『おばけ駅』のホームに呼び出して言った。 「おれねえ、『烏…

心一つに立ち上がれ!23.

初めての『ユメ会議』は冒頭から波立っている。勝蔵さんがいきなり「破暮駅をおばけ駅に改名しよう」と提案したのだ。 「そんなことがおまえ、人気につながるのかい?」と、地区長さんが首をかしげた。 「世界中のどこにそんな駅名があるんです。まったく、…

心一つに立ち上がれ!22.

つぎの日、朝刊の社会面を開くと、きのうの大原総理の記者会見の模様がデカデカと載っていた。 内容は、大きく分けて三つあった。 1.大女優の大原さんが、小さな地域の独立を宣言したこと。(ニッポン国からの独立だから、ただごとではない) 2.会見を事…