2015-09-01から1ヶ月間の記事一覧

『小さなうそ』その4

友美がニッコリうなずいた。 「いいわ。取り引き成立ね。でも、ジュンちゃんはもう一枚描くことになるわよ。宿題の絵、わたしがもらっちゃうんだから」 「描くことないね。トモちゃんの絵におれの名前を書いて出せばいいんだもん」 スラスラ言えたじょうだん…

『小さなうそ』その3

小一時間が過ぎたころ、「はい、これでよし」と友美が筆を置いた。 「ジュンちゃん、描けた?」 「うん。ほとんどね」 「わたし完成よ」 純一が首を伸ばして友美の絵を見た。 「へ〜え。うまいじゃん」 「いいわよ。おせじ言わなくても」 「おせじじゃないよ…

『小さなうそ』その2

友美はココロを芝生に下ろすと、家から持参したビニールシートをサルスベリの木陰に敷いた。 純一が絵の道具を手にしてもどると、友美はシートのとなりを差して言った。 「ほら、ジュンちゃんもすわれるわよ」 「えっ? あっ、うん」 純一は、ココロの首にリ…

児童小説『小さなうそ』その1

「まあ、かわいい」 ふり返ると、朝顔のからまるフェンスごしに、水之江友美が立っていた。白いブラウスに落ち着いた色合いのスカート。短めの髪が夏空の下では清々しい。手に画板を下げている。純一は照れながら、子犬をだいて立ち上がった。 「生まれたば…

小説『木馬! そして…』最終回

「驚きました。運命の女神は、一途に願う人を助けるのですね。愛さんのもっとも古い過去を知る人が、この場にいらしたなんて」 そう言ってから、月丘恵子はハマさんを見た。 「こうなってしまったら、浜松さん、ダメと言ってもわたしが言います」 ハマさんが…

小説『木馬! そして…』29.

18.あなたが! マイクロバスがポルケーノハイウェイを下っている。日帰り湯からの戻り道だ。 「とってもいいお湯。泉質もよかったけど、温泉が渓谷の流れの中というのにはびっくりでしたよね」 「ええ。川そのものが温泉だなんて、さすがは那須。大感激で…

小説『木馬! そして…』28.

17.母である重さ「身から出たサビと申しましょうか、わたしには、とてもつらい日々がありました」 古澤佐代の話は唐突だった。 「このたびの旅行、娘が月丘先生にお伴をして元町さんの別荘へ伺うと言うではありませんか。その目的を詳しくは存じ上げませ…

小説『木馬! そして…』27.

「本日は、お忙しい中、ここにこうしてお集まり頂き、ほんとうにありがとうございました。浜木先生と若島さんには、まだ申し上げてありませんでしたけど、じつはこの集まり、わたくしにとって長年のユメでした。ユメのきっかけは、今年四月のテレビ番組『わ…