2015-06-01から1ヶ月間の記事一覧

小説『木馬! そして…』12.

7.この子にも 木馬の「幸せちゃん」が消えて、幸子は大層悲しんだ。 もうひとり、木馬の「幸せちゃん」が消えたことで、幸子も驚くほど悲しんでくれた人がいる。おそうじのおばちゃんだ。「困ったわねえ」「困ったわねえ」を繰り返した。 「おばちゃん。そ…

小説『木馬! そして…』11.

翌日、幸子の部屋を山田が覗くと、古澤佐代が回収しかけたゴミ箱を手に、幸子をじっと見つめている。 「あら古澤さん。どうしたの?」 「あっ、山田さん。ちょっと見て下さい。さっちゃんのくちびる」 「くちびる?」 山田もベッドに寄って幸子を見た。 「く…

小説『木馬! そして…』10.

6.消えた木馬 幸子は函館の病院に送り込まれた。心臓は動いていたが意識はなかった。 こんこんと眠り続ける幸子の枕もとには、木彫りの馬が置かれていた。新聞に「奇跡の木馬」と報じられた馬である。 「これが、この子の命を救った奇跡の木馬か。新聞にあ…

小説『木馬! そして…』9.

とても小さなログハウスの喫茶店。そこのマスターが掘る木馬を、幸子が欲しいと言い出した。「う〜ん」とマスターは思案顔。 「木馬を譲って頂くことに、何か問題でもありますか?」とお父さんが訊いた。 「うん。問題ありだね。在庫が切れちゃっているのね…

小説『木馬! そして…』8.

5.奇跡の木馬 昭和二十九年九月二十五日。 早朝、台湾の東の海上で北東に進路を変えた台風十五号は、ほとんど一直線に進んで、二十六日午前二時ごろ九州の大隈半島に上陸した。その後、四国・中国地方を斜めに横切り、スピードを上げながら日本海へと突き…

小説『木馬! そして…』7.

4.真実の灯り 元町あかりの告白は、それなりの反響を呼んだ。テレビのワイドショーや週刊誌、スポーツ紙の芸能面などが、こぞって取り上げたからだ。しかし、その扱いは興味本位に走るものが多かった。一部の週刊誌などは、「捨てられていた絹のハンカチ」…