2015-04-01から1ヶ月間の記事一覧

ナナカマドの仲間たち 22.

22.それぞれの想い◎里江の話。 『前略。きょうは時候のあいさつ抜きで本文に入ります。一刻も早く、感動の出会いを里江ちゃんに報告したいので─。ほんとうは、すぐにも電話でと考えましたが、それは思いとどまりました。電話よりも、手紙の方がよいと思っ…

ナナカマドの仲間たち 21.

21.八つの星を一堂に 上空を、大きな鳥がゆったりと舞う。尾が台形で、羽の先に白い模様が見える。トンビのようだ。 「ゆったりと、おだやかな舞いだねえ。うん、あれが生きてるものの舞いなんだなあ」 人生のほとんどを企業人として走り続けた信之の、ど…

ナナカマドの仲間たち 20.

20.ナマリ色の足 どこから来たかと問う光子に、男は、ふり向きもせずポツリと答えた。 「海の方から」 どこか無礼な感じだが、光子には、それを気にする様子が見えない。 「こちらは初めてですか?」 「いや」 光子が推理探偵のような言い方をした。 「む…

ナナカマドの仲間たち 19.

19.とんぼ沼のほとり あれから六十年が経った平成26年8月16日。 あの日の荒くれがウソのよう。とんぼ沼はおだやかに、青い空をその水面に映していた。 武、光子、信之、わたしの四人は、とんぼ沼のほとりに立った。十年目となる節目ごとに、仕事の都…

ナナカマドの仲間たち 18.

18.村のやつらのバカッタレーッ! 昭和29年10月2日。太洋は一ヶ月半ぶりに退院した。 その日の来るのを首を長くして待っていたのは、太洋であり、おれたちであり、太洋のお母さんだ。母親がわが子のケガの回復を待ちわびたのは当然だけど、やつのお…

ナナカマドの仲間たち 17.

17.ほんものの船長 おぼろだった太洋の意識は、二日ほどで元に戻った。 頃合いを見て、おれたちは太洋を見舞った。おれたちには、どうしても聞いておきたいことがあった。なぜ太洋が、あれほどまでして常男を救おうとしたのか? あのときのおれたちは、自…

ナナカマドの仲間たち 16.

16.刑事が太洋を! 遭難から三日後の8月19日、常男の葬儀が行われた。 もちろん、おれたちも参列したが、そこに太洋の姿はない。やつは病院のベッドの中。意識をなくして眠っている。意識が戻る保証もない。 常男の葬儀だから常男がいないのは当然だが…