『野原の子どもたち』

『野原の子たち』
 ぼくたちが野原に立つと、誰からともなく子犬のようにジャレついて、転がし合うのが常だった。野は絨毯のように柔らかく、赤チンの要らない遊び場だった。
 女の子たちは、咲き誇るレンゲソウの花の中に身を埋め、首飾りを編んでいた。シロツメグサの茎を連ねた花冠も作っていた。幸運を呼ぶという四つ葉のクローバーを、必死に探している子もいた。
母は毎年春がやって来ると、ヨモギの新芽を積んで草餅をつくってくれた。つくしん坊やわらびも、春の食卓には載った。今に残る母の味だ。
 時代はコツコツ廻って六十年。野原の子たちは消えてしまった。
 先日、同世代の仲間三人で那須岳経由・南月山に登った。山頂で仲間持参のウイスキーをカチンと合わせたら、たまたま通りかかったこれまた同世代と思える御仁が、「おや、お祝いですか?」と問う。「ええ、ぼくの誕生日の前祝いです」とぼくが答えたら、御仁、リュックから自身が採取して作ったという四つ葉のクローバーのしおりを取り出し、「では、幸運をあなたに」とプレゼントしてくれた。これ、往年の野に親しんだジイちゃん同士を繋ぐ発想─ということだろうか。有り難く頂いた。