『金魚売り』

『金魚売り』
「きんぎょ〜ぇ きんぎょ〜っ」と、細く涼しげな声でやって来る金魚売り。風鈴のチリンチリンも清涼感を呼び、暑さが一瞬なりとも和らいだ。
 金魚は、千年以上も前に中国で作り出された魚である。元祖を辿れば鮒で、これが緋鮒となり、さらに改良が繰り返されて現在に至っている。江戸中期には新しい金魚もやって来て、区別の意味で、従来からの金魚を「和金」と呼ぶようになった。
 金魚と聞くと縁日の「金魚掬い」も懐かしい。和紙を張った針金の輪を「ポイ」と言う。ポイはすぐに破れるので、ぼくは金魚にバカにされっ放しだった。「コツがあるんだよ」と、友人の〝金魚掬い名人〟にも笑われた。名人曰く。「和紙を張った側を上にして使うこと。金魚の頭から掬うこと。尾をポイに乗せないこと。最も重要なのは、うまそうな顔をしないこと。うまそうな客と見ると、縁日のおっさんは薄い和紙のポイを出すぞ」…だって。
 キンギョ美しければドジョウ悲し。ある水族館で、費用を抑えるために金魚を餌として使ったら、途端に「残酷だ!」の抗議が殺到した。仕方なく割高のドジョウに切り替えたら、抗議はピタリ止んだという。「キンギョ迷惑」だの「美人は得」だのと笑える話ではない。人はそういう見方をする。