『張り板』

『張り板』
 貸衣装もドライクリーニングも無い時代、晴れ着のまま羽目を外す今のような成人式が行われたら、母たるものは途方に暮れたと思う。汚れたもの、傷んだものは、解いて洗い、縫い直すしかなかったのだから。
 昭和二十年代の生活には、和服、どてら、半纏、ちゃんちゃんこ、布団諸々、毎年の縫い直し作業がついて回った。
 春になると解きが始まり、洗濯するのは夏。その洗濯物を乾かすのに使うのが張り板だ。木綿類は、ふのりを煮て糊を作り、その糊を使って張り板に張る。
(絹物類は、〝伸子針〟という竹ひごに針のついたものを使って干した。)
『張り板二枚か四枚、伸子は一組』というのが嫁入り道具の標準だったと聞けば、当時の主婦の苦労が知れる。
 よく晴れた夏の日の庭や路地塀には、張り板が立ち並んだ。量が半端ではないから、こうした風景は何日にも及んだ。
 更にあとがまた大変。縫い戻す作業が待っている。それなのに、どこのお母さんも大らかだった気がする。「わがものと思えば軽し笠の雪」の心境か? 頭が下がった。