『御用聞き』

『御用聞き』
 御用聞きと聞けば、漫画『サザエさん』に登場する三河屋の三平さんと、その後任のサブちゃんが浮かぶ。どちらも好青年で、三平さんはカツオたちを実家に近い蔵王のスキー場に連れて行ったりもしている。時代背景を大切にした漫画だったから、こうした顧客との深い関係も、程度の差はあれ、実在していたのだろう。
 わが家にも、酒屋と米屋の小僧さんが御用聞きに来ていた。質素で大した注文を出せる家ではなかったが、それでも定期的に廻って来た。当時の醤油は一升瓶だし、米や麦にしても、一度に買うのは米櫃を満たす量。主婦では持ち運びが儘ならない。そう考えれば、御用聞きは無くてはならない存在だったと言える。
 それにしても、あの商いを超えた温もりを今得ることは出来ない。背伸びして切れた電球を取り換えてくれたり、落ちそうな棚の釘打ち修理も「あっ、それやりますよ」と買って出てくれたり、「ついでだから」と郵便物の投函までしてくれた。
 今や酒屋も米屋も総合スーパー、コンビニ、インターネットなどに取って代わられた。買うだけなら不便は無い。だけど人々は、大切なものを失ってはいないだろうか? 人と人との関係が空疎になってはいないだろうか?