『てるてる坊主』

『てるてる坊主』
 運動会や遠足の前日の空を雲が覆うと、子を持つ家々の軒先に、白いてるてる坊主がぶら下がった。翌日の晴天を祈念するわけだが、雨の予報が出ている時ほどそうするものだから、頼まれる側のてるてる坊主は、「間尺に合わない」と、ブツクサ嘆くことだろう。いや、嘆くどころではないかも…。『てるてる坊主』の歌をご存じか。1番では「いつかの夢の空のよに 晴れたら金の鈴あげよ」、2番では「わたしの願いをきいたなら 甘いお酒をたんと飲ましょ」と言っておきながら、3番で「それでも曇って泣いたなら そなたの首をちょん切るぞ」と恐喝しているのである。
 大正時代に作られた歌だが、「怖すぎる」ということで、3番はカットすることが多いと聞いた。だが童話に限れば、グリム童話は言うに及ばず、『人魚姫』『三匹の子ブタ』『舌きり雀』『耳なし芳一』…語り継がれる名作の多くが残虐性を含んでいる。
 ぼくたちの遊びにおいても、トンボの羽根をもいだり、カエルのお腹に空気を送り込んだり、残酷経験幾多である。〝悪〟を知らない真水の幼魚が、その将来において〝善〟に生きる心を持つだろうか? 現代社会全体は、今、残酷へと向かっていないだろうか? てるてる坊主を吊るして、あしたの晴れた社会をお願いしたい。