『台風』

『台風』
「台風○○号は間もなく和歌山県紀伊半島付近に上陸し、夜には関東の首都圏直撃の恐れが出ています」
 ラジオが大型台風の接近を知らせると、トントントン…と、どこからか釘打ちの音が聴こえ始める。音は次第にその数を増し、数時間のうちには町中トントン、トントン…まるで〝カマボコ祭り〟でも始まったかの様相となる。
 そんな日は父も職場から早帰りしてトントンの仲間入り。用意してあった板だのトタンだのを、引き戸、窓、勝手口…、弱点と思える箇所に片っ端から打ち付けた。元々弱点だらけの家だから、すべて補強したあとは昼間のうちから闇をもたらし、夜には本物の停電がやって来た。雨だれ共騒曲も朝まで続く。今も台風は恐ろしいが、小学時代のぼくは、台風と聞くと天地の定めがぶち壊されるほどに恐ろしかった。
 小学1年の時はキティ台風(死者・行方不明160人)、2年の時はジェーン台風(同539人)、3年でルース台風(同943人)、4年でダイナ台風(同135人)、5年は南紀豪雨があって(同1124人)、6年は洞爺丸台風(同1761人)。この洞爺丸台風では、「船長の家内です」と、遺族に詫びて回る夫人の姿があったそうだ。