『クズ屋』

『くず屋』
 東京の下町にあるわが家の近辺には、リヤカーを引いたくず屋さんがよく廻って来た。
「くずィ〜、くずィ〜。くずや〜ァお払い」
 声が掛かればボロ布、古着、古紙、金物、割れたガラス…、大抵のものを天秤ばかりに掛け、「一貫目幾ら」で引き取った。やっていることは今の廃品回収業と同じだが、テリトリーがリヤカーを引ける範囲だし、回収物の内容ときたら、今の業者は歯牙にも懸けないものばかりだ。
 廃品回収業の歴史は古い。近世前期、京の町にはすでに紙くず買いの業者が居た。江戸元禄の『人倫訓蒙図彙』という書物にも、大きな布袋を肩に掛け、竿秤を持った女の紙くず買いが描かれている。近世後期にはそれらが男の職業となり、古着、古鉄、古道具なども買い集めるようになった。
 小学生高学年の頃のぼくは、同じ境遇(貧乏人の子弟)である親友と、くず屋の寄せ場によく出入りした。腹が空くと空襲で焼き落ちた工場跡地などをほじくり回し、鉄くずを拾い集めてお金に換え、コロッケを買ったことが何度となくある。