ひとしずく。その66

 日本人男性の寿命が、昨年80歳の大台に乗った。「そりゃすげえ!」と感嘆したら、女性は86歳を超えているって言うじゃない。やっぱりね。けど歴然たる差はあるにせよ、夫婦揃って傘寿超えの相合傘が実現したってわけですなあ。
 しかしねえ、聴こえはメデタイ話なれど、その実態を覗き込むと痛々しい。
 平均寿命とは別に「健康寿命」というのがある。それは「日常生活を送る上で支障の無い平均的年齢」を指していて、男性が70歳、女性が73歳だと言う。…ってことは、その年齢から平均寿命までの間、つまり男性なら70歳から80歳までの10年間は、「日常生活を送る上で支障のある生活を続ける」という「悲しいお墨付き」を得たってことでしょう。家族に迷惑がかかる。世の中に迷惑がかかる。若い人たちに負担がかかる。まずいですよ、これ。
「何が何でも息あるうちは寿命の内」って、そんなの僕は要らない。本人が楽になりたいのに、周りだって内心「もう駄目だ」と解っているのに、ことさら博愛ぶってどうするのよ。喜ぶ人が誰一人いないのに、本人を苦しめ続けてどうするのよ。
 僕はそんなのごめんだから、今から「そんなのごめんです」と書き残してある。僕が口を利けなくなったら、「あそこにあるから、アレ読んで」と妻に伝えてある。「要らん延命せんといて」と伝えてある。
 神がそれぞれに与えた寿命に、やたら手を突っ込んで、人間の好きなようにやったからって、それで幸せなんか得られない─と、僕はしっかり思っている。
 そこで今日のひとしずく
『喜び過ぎまい。期待のおおむね八割は、失望のタネである』