ひとしずく。その68

「最近は異常気象だ」と人は言う。豪雨による広島の大惨事も「異常気象によるものだ」と、誰もが天を恨む。僕もまた、犠牲となった少年や幼児や、被災の子を救おうとして落命した消防士らの新聞記事を、痛恨に包み込まれて読む。「地形がどうの土質がどうの」と言うけれど、そんな事後の呪い事など気休めにすることなど出来ようはずがない。ただ僕は、この事故を「異常気象によるものだ」とは思っていない。異常と思える今は、これが「通常気象なのだ」と僕は思っている。ふり返ってみれば解る。
 以前にも書いたが、僕が20代のTVディレクター時代、「世界人口が現在の1.5倍の60億を突破したら、地球はえらいことになる」というテーマで、学者先生たちに集まってもらい大討論会をやったことがある。その「えらいことになるはずの60億」を、今は遥かに超えてしまっている。その頃夢だったマイカーを、今は一家が複数台転がして、気管支を傷めた都会のコウモリやオケラやモグラは没してしまった。けど、感度の悪い人間だけは元気ハツラツ。冬暖かく、夏涼しく、暖房冷房在るがまま。しもやけ、あかぎれサヨウナラ。「今こそ快適」と思いたがっている。
 最近のこと「火噴き竹、消し壺、洗濯板、徳用マッチ、張り板、くけ台、経木、五徳、行火、心張棒…とかって、それ、どういったものでしょう?」と、40代と思える人から訊かれちゃった。訊かれてみれば、無理ないことかも…。真冬のアイスクリーム店がヒットしたり、真夏の激辛ランチに行列が出来たりする現象を、僕がよく解らないのと似ている気がするもの。
 まあそんなわけで、異常と思える今が「普通の気象」なんだと思っている人は、僕と僕の妻を含めて、日本で5〜6人しかいないのではないか? 降雨量が増えて海面が上昇し、砂浜の85%がなくなっちゃうことを心配しているのは、海の家をやっている友人の高畠君を含めて、100人ぐらいしかいないのではないか? 那須の海抜650メートルに住む友人のチャコさんは、「最近、藪蚊やゴキブリをこの辺でも見かけるようになっちゃって…」とこぼしていたけど、正しく『日本の温暖化』を嘆いているのは、チャコさんを含めて、千人ぐらいしかいないのではないか? 本来優しい星である地球を「荒ぶる星」のようにさせることに加担したのは、日本人に限って言えば、一億二千万人ぐらいじゃないだろうか?
 そこで今日のひとしずく
『事故犠牲者への冥福とは、「再現はさせない」─との固い誓いでなくてはいけない』