『ポン菓子』

『ポン菓子』
 昔のぼくたちは、音に対して敏感で、一音節で聴き分けた。「チリン」と来たら金魚屋だし、「カラン」と来ればアイスキャンデー。「カチッ」と鳴ったら紙芝居、「チンチンドン」はチンドン屋。「ド〜ン」と来たらポン菓子である。
 ポン菓子とは、米やトウモロコシなどに圧力をかけ、それを一気に減圧することで膨らませた駄菓子のこと。「ポン菓子」とか「ドン菓子」と呼ばれたようだが、ぼくたちは「バクダン」と呼んでいた。そして、この「ド〜ン」が聴こえると、ぼくは、おカネも無いのに広場(空き地)に走った。おカネのある子は、米やトウモロコシを持って来る。そこに居るのは、穀類膨張機を操るおじさんだ。
 おじさんは、子どもたちが持参した米などを筒状の圧力釜に入れ、釜を回転させながら加熱する。釜の中が加圧されたら、釜のバルブをハンマーで叩く。これで釜は一気の減圧。米などの水分は膨張し、「ド〜ン」の爆裂音を伴って、網の中に吹き飛ぶのである。ずっと居ると、お裾分けが大抵貰えた(親には内緒)。
 ポン菓子は今でもスーパーなどで売っているが、広場からは消えて久しい。大きな音は、平成の世には戻れない。保育園もいけないらしい。