『チンドン屋』

チンドン屋
  ♪空に囀る鳥の声 峰より落つる滝の音 
     大波小波と滔々と 響き絶えせぬ海の音
 チンドン屋の定番曲『美しき天然』。清くして悲し気な旋律が、小学生のぼくを惹きつけた。見えない糸にぼくは挽かれ、町内グルグルついて回った日々がある。
 チンドン屋の歴史は江戸後期に遡る。大阪の飴売り商人が、鳴り物と口上による寄席の呼び込みを請け負ったところ、想定を超えての大評判。ここからチンドン屋が誕生している。最盛期はパチンコ店の 開業ラッシュに沸いた昭和二十〜三十年代。全国で3000人ほどがチンドンで生計を立てていた。
旧来は、鉦と太鼓を組み合わせたチンドン太鼓に、ゴロス(大太鼓)と三味線を加えた三人編成が基本だったが、洋楽器も参入して楽器構成が多様化して行く。扮装も伝統的な股旅姿やピエロへの拘りがなくなり、ド派手なコスプレも登場する。
 やがて、宣伝カーが街を走るマスの時代。チンドン屋は「過去の職業」へと追いやられる。だが消滅してはいない。全国現存のチンドン業者が集まる『全日本チンドンコンクール』は現在も毎年富山市で開催されていて、若者の新規参入もあるとか。