『雑巾がけ』

『雑巾がけ』
 雑巾がけとは、雑巾で拭き掃除をすることであり、比喩的には、下積みの苦しい作業や経験を指したりする。その比喩をぼくたちは頷く。学校の掃除当番で一番辛かったのが、冬の教室の雑巾がけだったから。 
 教室の机と椅子を後ろに押しやり、冷たい雑巾で床をドドドーッと拭き走る。黙々ではつまらないから「よーい、ドン!」と競争すると、「もっと丁寧にやれ!」と先生が仰る。手は後ろに回したまま口で言うだけ。山本五十六とは違って、手本を見せたりすることはない。面白くないから死角に廻って手を抜いていたら、主婦づらした女の子に、「さぼるな!」と箒で尻を叩かれた。
 それも今では尊い想い出。これからはどうか? 校内には暖房があり、モップがあり、家庭内においては、UFOみたいなやつが部屋中孤独に駆け回り、クルクル掃除を代行している。
 名刹はどこも百年千年の歴史を持つ。小僧さんたちが、営々雑巾がけをし続けて来た手柄でもある。 ネットに「毎日雑巾がけをすると、三十六日間で一キロ痩せる計算ですよ」と書き込んであった。これが雑巾がけの効用に対する今風の視点。