『蓄音機』

『蓄音機』
 手でゼンマイを巻いてレコードを回す蓄音機。トーマス・エジソンが蓄音機を発明したのは1877年。自分で発明した機械から音が出たのを初めて聴いた時のエジソンは、飛び上がらんばかりに驚いたという話がある。
 明治二十三年、駐日米大使はエジソン蓄音機を明治天皇に献上している。国産初の蓄音機『ニッポン・ホン』が発売されたのは明治四十三年のこと。
 ぼくは小学校入学直前まで信州に疎開していて、そこでの住まいは母方の祖父が所有する屋敷だった。祖父は株で失敗するまでは相当の資産家だったそうで、幾つもある座敷の戸棚や納戸を引っ掻き回すと、資産家だった名残の品がぞろぞろ出て来た。
 その中の一つが蓄音機。レコードもあったが、就学前のぼくには訳の分からないものが多かった。憶えているものとして、一つは謡曲『石童丸物語』。幼少時別れた父子が、親子の名乗りもなく共に仏に仕えるという哀話だが、当時は何度聴いても解らなかった。自分でゼンマイを回して何度も聴いたのは、高峰三枝子の歌謡曲『湖畔の宿』と、二代目広沢虎造浪曲清水次郎長伝』。『石松三十石船』の中のフレーズ「寿司喰いねえ」や「バカは死ななきゃなおらない」は国民的な流行語となった。