『買い物かご』

『買い物かご』
 冷蔵庫が無かった頃は、調理したおかずを(特に夏場は)明日、明後日へと持ち越せなかった。今夜の食事は今日作り、明日の食事は明日やること─と、毎日食材を買いに出るのが主婦の仕事だった。それも、スーパーとかデパ地下など無いわけだから、魚屋、肉屋、八百屋、乾物屋…と、一軒一軒廻って買った。
 そうした日常の買い物で主婦が持って出た買い物かごは、誰のものもほぼ同形態。素材は籐、竹、イグサなど。手提げタイプの長方形で、優れていたのは底が平らだったこと。安定しているから、水平であるべきものを水平に保てた。
 今のエコバックやレジ袋では、注意しないと憂き目を見る。美味しそうな刺身のお造りだったのに、家に戻って開けたら、トレーの片側に重なり合って残飯状態になっていたり、ショートケーキが大暴れしてイチゴやサクランボを投げ出していたり…。
 あれほど便利な買い物かごだったが、共働きの世へと加速している今となっては、もう復活は望めない。アレを持って通勤電車には乗れないだろうから。
 時代というものが、一つずつ〝優れモノ〟を追い出して行く。かつて買い物に利用されていた風呂敷も、『粋』という言葉を連れて、大方が消え去った。