『赤電話』

『赤電話』
 タバコ屋・薬屋の店先に置かれていた黒電話が、昭和二十八年から順次赤電話に切り替えられた。利用料金は一通話十円。安いようだが、十円あれば電車にも乗れたわけだから、どうでもいい話に使ったのでは安くない。だけど時間制限が無かったわけだから、どうでもいい話を徹底的に楽しむつもりだったら安い。
 十円を惜しむトンデモナイ輩もいた。電話の通話料精算が通話のあとであることを悪用して、掛け終わったら精算前にタバコ屋・薬屋の店先から走って逃げる。しらばっくれて二度掛ける。市外に掛けたのに「都内だよ」と虚偽申告する。そんな卑劣な行為に手を焼いた電電公社は、電話機を〝硬貨投入式〟に切り替えた。
 硬貨投入式とは、ダイヤルを先に回し、相手が出たら十円玉を投入する方式。投入すると、そこから双方向通話が可能になる。投入しなければ、相手の声だけは聞こえるけれど、こちらの声が相手に届かないから会話にならない。
 その後の電話の進化は急だった。公衆電話に「十円で三分まで」の時間制限が出来た。ダイヤルが無くなった。コードも無くなった。片手に乗るようになった。今では小中学生のポケットの中にも電話器が無造作に突っ込まれている。