『竹とんぼ』

『竹とんぼ』
 ぼくたちの筆箱には、大抵〝肥後の守〟と呼ばれる小刀が入っていた。鉛筆を削るためだが、遊びにも使った。竹笛、割り箸ピストル、弓、パチンコ、ザリガニ釣りの笹竿…と、遊びの道具づくりに肥後の守は欠かせなかった。
 竹とんぼも作った。竹を切り出し、ナタで割り、ノミやらキリやら、道具箱の小道具総動員の大仕事だった。軸穴が中心からずれていたり、左右の羽根の重さが均等でなかったりすると、うまく飛ばない。手を傷だらけにし、失敗を繰り返しながらも完成させることが出来たのは、徹底して遊べた時代だったからだろう。
 長野県に、「入学した児童全員に肥後守を持たせる小学校がある」と聞いて嬉しくなった。現時点での話である。筆箱に入れてあり、鉛筆はそれで削る。工作にも使う。『ナイフに親しむ週間』というのもあって、使い方を一年生に教えるのは六年生。それを伝統にしているという。きっと、素晴らしい竹とんぼを作ると思う。「工夫」も身につけると思う。心の幅を持った子が育つと思う。
 何年か前に二女夫婦がやって来た時、妻を含めた四人で、竹とんぼの飛ばし競争をした。いい歳をした大人ばかりが一時間以上も笑い転げて遊んだ。「大人も昔は子どもだったんだよね」と、『星の王子さま』を書いたサン・テクジュペリと頷き合った気分の一日だった。