『紙芝居』

『紙芝居』
 紙芝居は、トーキー映画の出現で活弁の職を追われた弁士たちが生み出した日本独特の演芸である。
 ぼくたちのホームグラウンド(遊び場=神社の境内)には、毎日二人の紙芝居屋がやって来た。一人は拍子木で子どもを集め、もう一人は太鼓で集めた。
 拍子木のおっちゃんは、笑うと抱きつきたくなるほど愛らしい表情を見せるのに、真実は異なもので、買わない子を見るとコブラのような目になって「あっちへ行け」と言う。小学時代のわが家には小遣いというものが存在しなかったから、買わないのではなく買えない。買えなくても生意気盛りの小学校高学年。「あっちへ行け」と言われたぐらいで、「へいこら」素直に行きやしない。おっちゃん、相当悔しかったと思う。
 もう一人は、拍子木のおっちゃんより多少若づくり。こちらは買わない子でも差別しない。さすれば、恩義の上にあぐらはかけない。わが親友も「小遣い無し組」だったから、渡世の義理ではないけれど、二人で時々は太鼓の巡回を買って出た。
「わはははははは…。ナゾーよ、よく聞け。秘密のマントは正義の印」
 太鼓のおっちゃん演じる黄金バットは、その高笑いが心地よかった。