『置炬燵』

『置炬燵』
 寒い冬も、ぼくたちは外で遊んだ。遊んでいる時も寒かったはずだが、厳寒の記憶はあまりない。躍動の遊びに夢中だったこともあるだろうけど、どこへ行っても全館暖房など無い時代。ある程度の寒さには慣れっこだったということだろう。
 それでも家に帰ると「寒かったでしょう。ほら、早くあたりなさい」と、母が炬燵布団をポンポン叩いて勧めてくれた。一般家庭の暖房器具としては炬燵と火鉢だけ。知らなければ欲しがりようもなく、炬燵は充分に有難い存在だった。
 日没が早まると夕飯も早まるから、冬の夜はダラダラと長い。夏場なら外に出て涼むなり遊ぶなりも可能だが、真冬の夜はそうもいかない。結局、一家で一つしかない炬燵を囲んで過ごすわけで、そうなると何かが始まる。当時の炬燵は正方形が主流で、市販の炬燵板は、裏返すと麻雀卓となるラシャ張り仕立てが多かった。わが家のも同様だったが、当家にはパイも無いし雀士もいない。そこで始めたのが花札遊び。夕飯が終わると、ぼくは炬燵板をひっくり返した。花札遊びの催促だ。
 炬燵に似合うのはみかん。わが家のみかんはいつも傷んでいた。みかんとはそういうものかと思っていたら、傷んだものを半値以下で買っていたとあとで知った。