『あやとり』

『あやとり』
 毛糸や紐を輪にして両手に掛け、指を入れたり外したり…。一人でも二人でも遊べるあやとり。青森では「とりあげ」、三重では「しずとり」、関西では「いととり」、和歌山や鹿児島では「いとかけ」と言うそうだ。
平安時代から伝わる遊び」と聞いて、日本独特の遊びだと思っていたら、内容的には、どこの国でもやっている世界共通の遊びなんだとか。技も豊富で、高度になると口や足の指、肘や膝まで使うなど、その数、公式に確認されるものだけで二千種はあるのだとか。学校の休み時間に毛糸を取り出し、「ハイ川ね」とか「これは橋」とか「梯子で〜す」とか無邪気に遊ぶ女の子たちに、(それのどこが面白いの?)─みたいな冷ややかな目を向けていたけれど、一本の糸から生み出す〝形〟の数が二千と聞けば、最早それは一つの芸術。奥の深さを認めなくてはいけない。
 折り紙、お手玉、あやとり…。思えば、女の子たちの遊びには優雅さがあった。この「優雅さがあった」と過去形にしてしまうあたりが寂しい。「やばいやばい」を連発しながら、名字を呼び捨てにしあう女子たちを、ぼくは当時の将来像として、まったく想像するところではなかった。これも進歩の中の一つなのだろうか? 違うと思うな。