『BCG』

『BCG』
 長い間、ぼくは注射に対して「肉体に鉄の管を突き射す野蛮極まるもの」という敵意を抱いていた。注射のたびに泣き出す子がクラスにいて、そういう子を笑うことで、ぼく自身に襲いかかる恐怖を何とか凌いでいたのである。
 その注射恐怖派にとって、特別厄介なのがBCGだった。「ツベルクリン反応」と呼ぶ結核反応検査の注射があり、その結果が陰性だと射たれる予防接種。つまり陰性判定が出ると改めて射たれる注射だから、泣く子はトコトン泣かされることになる。ツベルクリン注射の跡が赤く広がれば陽性。赤い部分が小さいと陰性。二度目の注射を嫌って注射の跡をピチャピチャ叩き、何が何でも陽性に見せかけちゃおうとする子がいた。気持ちは分かるが、今も健康に過ごしているだろうか?
 六年生の頃だったと思うが、膝に水が溜まって医者に行ったことがある。医者は「水を抜こう」と言って、太い注射針をぼくの膝にズドッと突き刺した。あまりの惨さに、ぼくは一時的に死んだ。数分して生き返った時の医者の視線は冷たかった。
 しかしまあ、あれこれ注射に毒づいたけど、こうして七十余年生きているということは、注射のお陰とも考えられる。良薬口に苦し。注射身に痛し。仕方なし。