『火の用心』

『火の用心』
「戸締り用心! 火の用心! マッチ一本火事のもと!」カッチ! カッチ!
 午後七時には商店の明かりも消え、闇に響く子どもたちの声。正月を前にした冬休み、ぼくたち子ども会も火の用心の夜回りをした。徒党を組むと気分が膨らむ。カッチカッチの拍子木が、気分を更に後押しする。恥ずかしげだった発声は、数分のうちに勢いづく。
 この「火の用心」という言葉、いつから使われ出したのかと調べたら、あの有名な手紙からだとモノの本に書いてあった。徳川家康重臣、本多作佐衛門が陣中から妻に宛てた手紙、『一筆啓上 火の用心 おせん泣かすな 馬肥やせ』である。現在、それをそのまま火の用心の夜回り言葉にしている地方もあるそうだ。
 戦時中はトンデモナイ夜回り言葉を子どもたちに押し付けたりしている。
「米英撃滅火の用心 撃ちてし止まん火の用心」
 ぼくたちの頃には「猫は蹴っても炬燵は蹴るな」、「秋刀魚焼いても家焼くな」、「カマドの不始末火の用心」などがあった。
 ひと回りして詰所に戻ると、温かいお汁粉が待っていたりした。