ひとしずく。その64

 武力闘争の続くウクライナ上空を飛行中の民間機が撃墜された。お決まりの責任擦り合いは人間の常。マレーシア機は、今年二度目の大災難だ。
 僕は昭和41年を思い起こした。その年の日本も、空の事故また事故だった。全日空機が東京湾に墜落して133人全員死亡。カナダ航空機が羽田の防潮堤に衝突して64人死亡。BOAC機が富士山頂近くで空中分解して123人全員死亡。全日空機が松山空港沖に墜落して50人全員死亡。当時民放テレビ報道マンであった僕は、同年暮れの重大ニュース航空機事故編の制作を担当した。
 人間は、鳥のようには空を飛べない。魚も犬もライオンも、やはり空を飛ぶことは出来ない。先日、孫らと上野動物園に行った折、その辺のところをトラやゴリラに聴いてみたら「空なんぞ飛ぶ気もない」と素っ気なかった。肉体的限界を超えてまでの野望を持つのは、この世で人間だけらしい。
 その結果として起こる事故は悲しい。「あってはならないこと」と誰もが思う。…と思っていたら、そうではなかった。今回の墜落は事故ではなく事件で、地上から凶弾をぶち込んだ奴が居たのである。
 人は子どもを生み、孫を得、子孫へと和みの輪を広げて行く。今回の乗客たちにも、そうした無限に広がる裾野への夢があった。それなのに乗客たちは夢を断たれた。一部の輩が、乗客たちから広がるであろう幾千万の命を、瞬時に奪い取ったのである
 僕が昭和41年に担当したのは「下手人の居ない事故」だったが、今回は「下手人による事件」である。だから言う。神をも恐れぬ人間が、武器なんか作っちゃダメなんだよ。どんな目的があろうとも、それを作れば邪に利用され、償い切れない悲劇を生むんだから。
 それなのに『積極的平和主義』とか何とか言いながら、この日本が事もあろうに、武器も原発も輸出しちゃう。あれへん話や。草葉の陰のアチャコはんが「むちゃくちゃでござりますがな」言うてるよ、ほんま。
 そこで今日のひとしずく
『酒に酔う者と己に酔う者には、車とまつりごとのハンドルを握らせてはいけない』