ひとしずく。その42

 三回目の3.11がやって来た。幼児だった頃の眼で見た戦争を別にすれば、これまでの僕は、9.11こそ「自身で見た最悪の人災」だと思っていた。しかし3.11は、天災としての地震を切り離すと、残る部分は9.11に勝るとも劣らない人災となってしまった。 
 三年前の今日のあの時間、僕は道ばたに居た。電線が、子どもの頃校庭で見た女の子たちの縄飛びの縄みたいに大きく揺れ出し、瞬間的に「これは地球絶滅か!」と疑った。地震の揺れは収まったが、絶滅のタネは残った。残った部分は9.11と同じに人間の所為だ。
 3.11は僕たち夫婦の結婚記念日でもある。だから三年前のこの日の昼は、予約したホテルのレストランでささやかな乾杯をした。今日また、同じホテルで同じようにささやかな乾杯をする。悪夢の再来を恐れた妻は、当初この企画に難色を示したが、「あんなことが二度もあってたまるもんか」と僕が言い、敢えて同じランチを実行する。依って今からホテルに向かう。勿論、あの時間前には切り上げる。黙とうしなくてはいけないから。
 それにしても、天災のあとに残った人災。「過ちは繰り返さない」という教訓を犯す過ちが何故続くのか。猛る人びとよ、心鎮めて下さい。夕陽の中まで友と遊びに興じた子どもの頃の友愛の心を想い出して下さい!
 僕たち夫婦が、三年前の今日呑んだのは記念の酒。今年の今日呑む酒は鎮魂の酒。
 そこで今日のひとしずく
『人間が作り出す悪魔ほど恐ろしい悪魔など、この世に居ない。だが、そんなことに納得なんかしていてはいけない』