ひとしずく。その29

 僕は、子どもの頃から漫画がそれほど好きではなかった。息吹を感じない無機化合物のようなものも好きではなかった。だから、友だちが熱を挙げる『鉄腕アトム』なんか見る気もしなかった。長じてテレビ界に入り、手塚治虫さんとは毎週一度、対一で付き合う仕事を丸一年間仰せつかったが、雑談で漫画の話をしたことも、鉄腕アトムに言及したこともなかった。無理に避けたわけではない。早い話、僕としては興味がなかった。
 さて、その鉄腕アトムが活躍する時代想定が、丁度今頃なのだということを最近知った。
鉄腕アトム」は、人間の心を持ったロボットである。それが、今の時代に活躍することを想定していた手塚さんって凄い。だって、去年は将棋のプロが初めてコンピューターに破れたし、戦争の「脱人格化」も始まっている。手塚さんの想定通りになっているのだからね。
 しかし、そうした想定が現実化してゆくのは怖い。すでに無人機は対テロ戦争に出撃している。人間の兵士の代わりに標的を自分で探し、攻撃完了までを果たす『殺人ロポット』の出現も間近と聞く。だから、そんなロボットの製作および使用に関する定義と是非を話し合う国際会議が必要となり、今年の五月にそれが開催されるのだと言う。じわ〜り…人間界が漫画の世界に嵌って行く。「恐ろしい世の中になったものだ」─と僕は思う。
 そこで今日のひとしずく
『人間は、自爆的絶滅危惧種…かも』