怪しい売人となる

 知人が「フリーマーケットに出店したので、覗きに来ませんか?」と言う。「何を売ってもいいフリマだから、結構面白いですよ」とも言うから面白半分出掛けてみたが、これが間違い。知人は僕を迎えるなり「待ってましたよ。一人より二人だもの」だと。ハメられて売り子にされてしまったのだ。酷い話だが、輪を掛けて酷かったのは、売るべきものの実態。よれ杉の苗、コナラの苗、ガマの穂、ヘビウリ、パルメザンチーズ、それに自家製のジャム、マタタビの醤油漬け、カボスの醤油漬け。
 自家製でもないパルメザンチーズが何でこの中にあるのか解らなかったが、その他の商品群も怪しげなものばかり。よれ杉は、ヨレルと言うより枝々がデレンと垂れ下がった情けない代物。知人は、それを誇らしげに客に勧める。「ねっ、これ、珍しい苗でしょう?」と。僕だったら、こんなみじめっぽい苗なんか買わない。
 コナラの苗はもっと酷い。客のヒソヒソ話が耳に入った。
「こんなの、どこにだって、イヤというほど生えているじゃない」
「そうよ。うちなんか、庭中ポコポコ出ちゃって困っているわよ。根を張るとなかなか抜けないから、雑草より始末が悪いったらありゃしない」
 滅茶苦茶な言われようだが、わが家の庭にもコナラがあって、ドングリが落ちるたびに活着するから、まさにポコポコ状態だ。都会ならいざ知らず、一本百円だろうと那須でなんか売れるわけない。
 ガマの穂はドライ用だが、那須はそろそろ紅葉シーズン。大自然の中に暮らしながら、家の中に枯れ草を飾る人なんていないだろう…と僕は踏んでいる。
 ヘビウリは、その名の通りヘビそっくりの姿かたち。長いものだと二メートルにもなる。育て方でどんな形にも出来るから、とぐろを巻かせたものもある。
「あら、これ何かしら?」と問う客有り。訊かれた僕は、見たのも、触ったのも、その名を知ったのも、ついさっきのことなのに、知ったかぶって答える。
「これ知らないの? 那須で取れるんだけどねえ」
「へーえ。飾り物?」
「飾ってもいいけど、食べてみてよ」
「食べる? どうやって?」
「味噌汁に入れてもいいし、糠漬けにしてもいい。一番いいのは豚肉とニンニクで、ゴーヤチャンプル風に炒めることだね。那須に住んでいるんだったら、一度は食べておかないと、恥をかくかもよ」
 味はどうなのか、歯触りはどうか、皮を剥くのか剥かないのか、日持ちはどうか…。誰も買う気がないらしく突っ込んでは訊いて来ない。訊かれたら、こっちはな〜んにも知らなかったんだけどね。
 十月とは言え、太陽光が降り注ぐ中に並べたジャム、カボス、マタタビ等のビン詰類には、「直射日光を避けて保存して下さい」と書いてある。それを僕が読んだのは売り終ったあとのこと。どうするのよ、この始末。エライ体験をしちまったなあ。