奇人変人人見知り

 今年は順番制で巡り来る町会の班長さん。何かと小用が多く、那須滞在はままならない。
 その任務としての大イベントは、八月頭の盆踊り。そこには二つの辛さが待っている。
 辛さの一つは、炎天下での草むしりと櫓の組み立て作業。朝晩炬燵の生活者が体温同等の猛暑下に引き出されるなんて「殺人未遂の罪になりません?」と問いたくなる。でもまあ平等の義務ともなれば、これも仕方ありませんなあ。
 辛さのもう一つは〝孤独〟という環境だ。前回班長だった十年前を思い出す。僕は会話もなく黙々と草をむしった。気づけば周囲も黙々としたオジンたち。恐らく僕同様、会社人間の成りの果て。知り尽くした町なのに、知る人が一人も居ない町との直面。これ哀れ。
 あっちの方に、親しげに会話を交わす数人が居た。(中にはそういう人も居るんだ)と感心していたら、互いの言葉がズーズーしている。(何だ。幼少時からの土地者同士か)ってわけね。
 元々僕は人見知りをするタイプである。性質にも因ろうが、年代ということもあるように思う。わが年、昭和17年生まれは、奇人変人傍若無人が揃った感じ。その実、どこか孤独の臭いもする。小泉純一郎小沢一郎角川春樹加納典明上岡龍太郎糸山英太郎青木功。海外にしても、金正日とかカダフィ大佐とか…。どう見たって、初対面に対して打ち解けるタイプには見えない。…でありながら、初対面を忌避できない立場に居る人たちばかり。妙ですなあ。
 僕もまたテレビ局という職種から、初対面が多かった。嫌だったのは海外取材。会う人全てが初対面。冷汗三斗の日々だった。
 トンガ王国に行ったとき、「今そこでサッカーの国内最強チームが試合をやっている」と言うので覗いてみた。スタンドに入るなり目についたのは、最前列に並んだ偉そうなオジサマたち。
「あれは誰?」と通訳に訊いたら、中央におわすのがトンガ国王ツポー四世だと言う。左右に連なるのは閣僚の面々。そういうことなら、国王ご臨席の試合ということで数カット拾っておこうと思い、撮影許可を貰いに通訳を走らせたら、戻って来た通訳が言った。
「ミスター・カネコ、国王がお呼びです」
「えっ、国王が?」
 これは断れない。おずおず国王の前に進み出ると、国王は隣席の大臣に「一人づつずれろ」と命じて席を一つ空けさせた。
 かくして僕は、国王と外務大臣に挟まれてのサッカー観戦。試合中の国王陛下は、たびたび僕に話し掛けて来た。もちろん通訳を介してだが、何と疲れた一日だったか。僕は名にし負う人見知りのタイプ。定年後那須に引き籠ったのも、人を避けたいがためである。
 山中の暮らしには初対面が少なくていい。でも、ときどき会いたくないヤツが来たりする。つい先日も、そんなヤツが家の近くにやって来た。警察が「気をつけて」と言いに来た。すぐそこで、農夫が襲われたというのである。妻は恐れおののき、僕に鈴を付けた。クマのお陰でとうとう僕は、妻に鈴をつけられたのだ。