『徳用マッチ』

『徳用マッチ』
 販売マッチには徳用と並用があって、徳用一つと並用十二個の価格が同じだった。徳用に入っているのは約800本、並用は十二個分を合わせても500本。徳用の方が断然お得だったことになる。
 欧州生まれのマッチが日本に伝わったのは明治初期。木の摩擦熱や火打石では手間がかかり過ぎたから、一発着火のマッチは、瞬く間に全家庭へと普及した。
 わが家の徳用マッチは二か所に置かれていた。一つは台所のカマドの脇。母がこれを擦るところから一日が始まった。
もう一つは居間で、親父とジイサマが煙草の火つけに使っていた。煙草は親父が『ひかり』で、ジイサマは『しんせい』。親父は普通の吸い方だったが、ジイサマは一本を三つに切り、それを煙管で吸っていた。これなら吸い口部分も残さず吸い尽せる。ケチ臭いようだが、無駄を出さないという点で時代に合った賢いやり方だったと思う。
一時は配給制ともなった貴重なマッチだが、今では電化・ガス化が進み、殆どが自動着火。押すだけ、引くだけ、回すだけ。花火をやるんでマッチを擦ったら、孫がマッチに驚き、ぼくは孫に驚いた。